以前、一度図書館で借りたのに読めずに返してしまった本。(読んだ後に思ったこと。「ヒューマンエラーを防ぐ
方法」ではなく「ヒューマンエラーを防ぐ
知恵」になっているところに好感が持てる)
インフラ産業に関わってると「ヒューマンエラーなんて防げないよ」とも言ってられなくなってくる(原子力発電所なんてその典型かと)。とは言っても、事実としてヒューマンエラーは起き続けてる。本書がそういう現状に少しでも明るい光を投げかけてくれるのか?
まず本書の構成は、
- ヒューマンエラーはなぜ起こるか?
- ヒューマンエラーの解決策・防止法
の二本立てになっている。この手の本でよくあるのが「なぜ」のところにフォーカスし過ぎて単なる事例集になってしまってるものを散見するが、本書ではもう少し踏み込んでハウツー本として使えるようになっている。
■ ヒューマンエラーとは何か?
筆者はまず「ヒューマンエラー」を分類することを放棄する。結局のところ原因は複雑に絡み合っており、人間は自分の行動をそんなに意識していない、という意味で綺麗に分類できない。また、分類することで単純化が行なわれ、単純になると対策が立てられるような気分になる(しかしほとんどの場合、気分の問題でそんなに簡単にはいかない)。そんな誘惑を振り切っているところが潔く感じる。
■ ヒューマンエラーの特徴
- いつでもどこでも発生する
- 一度発生するとエライことになる (被害を予想しづらい)
- 防ぎにくい
- 根が深い
まぁ、だからなんだという定義だけど「難しい問題だよね」というのは伝わってくる。(実際、人が関わるエラーを難しいと感じない人は多いし)
■ 事故の定義
このうち意外性や有害性はを統一的な理論で決定するのが困難である。これは、
フレーム問題と呼ばれる人工知能における問題に見られるように、機械が有限の時間内で無限の可能性をもつ状況に対処することは不可能でことと同じである。つまりヒューマンエラーに対処できるのは人間だけであり、それを起こすのも人間だけである。
■ 悪魔の証明
「ドコカニ・イルカーモさんがいる証明」は簡単だが「ドコカニ・イルカーモさんがいない証明」は非常に難しい。同じように「事故が起きない証明」も非常に困難。
■ ウェイソンの四枚カード問題
[A][D][4][7] (片側にはアルファベット、反対側には数字)
「母音(A、I、U、E、O)が書かれているカードの裏面は偶数」というルールが守られていることを確かめるためにはどのカードをめくればよいか?[A] の裏と [4] の裏を見ればいいのではないか?
[酔ってる人][酔ってない人][成年][未成年]
「未成年は酒を飲んではいけない」というルールが守られていることを確かめるためにはどのカードをめくればよいか?[酔ってる人]と[未成年]をめくればよい。
実は、前者の問題は [A] と [7] をめくるのが正解。前者の問題の正答率は数パーセントらしい(僕も間違えた)。じゃあ、どうして後者の問題は間違えないのに前者の問題ではそんなに間違えるのか?具体的な題材になると間違えにくい、ということは分かったが、じゃあどうしてそれがそんなに正答率に影響か、は正直よくわかってない。というわけでポイントは
「なぜヒューマンエラーが発生するかを解明し、それを鎮圧する」方法ではうまくいかなそう、ということ。
以上で「なぜヒューマンエラーが起きるか?」はよくわからないことが分かった(笑)。では、なぜ起きるかが分からないことを前提とした場合、それでもどうやって防ぐことができるか?についての議論に移っていく。なお筆者は参考文献としてワインバーグの「ライト、ついてますか ─ 問題発見の人間学」を挙げている。今度読みたい。
■ 問題の捉え方
人間は(型にはまった)特定の捉え方で問題を捉えがち。しかも、そのように捉えてしまっていることを自覚することが困難。そこで問題を捉える際には以下のすべての視点を必ず持つと良い。
- 前提条件の問題:「そもそもそれってする必要あるの?」
- やり方の問題:「別のこういうやり方でやればいいんじゃない?」
- 道具と装置の問題:「こっちを使ってやればいいんじゃないの?」(やり方の問題と似てる)
- やり直せればよい:「別に失敗したらもう一回やればいいんじゃない?」
- 致命的でなければよい:「別に気にしなくてもいいっしょ?」(やり直せればよいと似てる)
- 認識の問題だ:「いや,むしろ失敗じゃないよ!」(逆転の発想)
というわけで、問題を「色々な捉え方をする」だけでなく「必ずすべての捉え方」をすることで特定の考え方にとらわれてしまう危険性を低くすることができる。
さて、問題を解決するための手法は多少理解できた。そこで、次にどうやって問題を解決していくか?についての議論に移っていく。
■ 問題解決への作業
誰が?- 被害者 - 自覚のない被害者、声をあげない被害者は問題の解決を妨げる
- 加害者 - 加害者の詮索はあまり有効ではない
- キーパーソン - たとえば社長。キーパーソンが被害者に含まれないと問題解決に時間がかかる。
そこで、キーパーソンも被害者に含まれるように問題を "広げる" 方法がある。それが「説得・法的制度・闘争」。
どうやって?また、縦割り組織も問題を妨げる。これは上記の「問題の捉え方」をすることである程度防げるが、一つの組織で解決策を考えてしまうことで「それは現実的にはうちでは無理っしょ」的な問題の一面的な捉え方に落ち込んでしまうことが多い。そこでタスクフォースなどを作ることで部署横断的に問題解決に取り組むのがよい。ただし、しばしば問題解決は新たな "負担" を誰かに強いることになるため、いきなりすべての問題を解決しようとするのではなく、小幅だが実現可能な前進を目指すべき。
問題解決をする道筋は分かった。では、問題が起こってから解決するのではなく、防止する方法はあるのか?
基本となる抑止対策は次の通り。
- 作業を行ないやすくする
- 人に異常を気づかせる
- 被害を抑える
行ないやすく、に関しては、作業者の五感に訴える、人間が認識しやすくする、余裕をもって対処をできるようにする、の三点が重要。異常に気づかせる、としては以下の15の方法を挙げている。
- あえて手間をとらせる (定期的なボタン操作)
- 小さな事故を起こす (スピードバンプ)
- わざと異常を起こす (予期せぬ反応)
- 刺激を与える (「美女入浴中」の看板)
- ストレスを排除する (無意味な選択肢の排除)
- 大事なものは最後 (ATM で現金は最後)
- 裁量にまかせる
- 脳を刺激する (音だけ、光だけでは眠くなる)
- 作業状況を分かりやすくする (単線におけるトークン)
- 作業員同士でチェックする
- 監視して緊張感を与える (オービス)
- 道義心に訴える (駅のホームにある自殺防止用鏡、作業者の名前を入れる)
- やらない
- させない
- 見返りを払う (これはあまりうまくいかない)
最後の、被害を抑える、には「きっかけ演繹法」と「事故原因帰納法」を挙げている。前者はあるミスからどんな事故に発展するか、後者はある大事故が起こる原因にはどんなものがあり得るか、をそれぞれ想像していく。
以上をもって実際の問題解決に当たっていくのだが、現場の問題点は机上でもすぐに分かるものの、現実における制約条件は詳しく聞いてみないと分からない。そこで現場の人間と一緒に、原因、原因の原因、原因の原因の原因、というように深堀りをしていくことが重要。解決策は当人たちが実は無意識にでも知っているので、その情報共有こそが問題解決のカギとなる。
ただし、「第一番の問題を取り除くと、第二番の問題が昇進する」ため問題はいつまでたっても解決しないという苛酷な現実は認識しておくべき。
で、このあとはいろいろな事例が挙げられる。適当にピックアップしてみた。
- 五叉路や時差式信号
複雑なローテーションは難しい。運転者に与える情報を制限するなど、予断の入る余地を小さくする工夫が重要。
- 恐怖と緊張
高速道路でのバイクの二人乗りの事故は比較的少ない。
- 何分まで待てますか?
レストランに入る前の10分と入った後の10分では後者の方が長く感じる。人間は状況からのフィードバックがないと耐えられない。
- パニック
非常扉は押せば開くように作られている。パニック状態の時は引いて開こうなんて思わない。(強く押すと壊れるようになっているのも良いでしょう)
- 向きの呪い
ストローとか箸とか飛行機のエンジンとか。なんだったら向きをなくせばいいのでは?ただし向きの呪いは強敵。
- なまえの呪い
専門用語は理解しがたい。一貫性が担保されてないと、人間の予断(先入観)が入りがち。
- 安全装置のジレンマ
常用化、無効化が横行しがち。小さな問題がほおっておかれない環境・組織作りが重要。
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